本論では以上3作品について言及します。
怪談というと、皆様どのような印象をお持ちでしょうか。
胡散臭い、嘘八百、ばかばかしい、などなど否定的印象をお持ちの方も多いのではないかと思われます。
かくいう私も、従前はそのように考えておりました。
そのような人間が如何にして怪談を評価するようになったのか。
その経緯について追体験をしていただけるならば筆者としてこれに勝る幸福はありません。
まずここで取り上げる3作品、内容はというと怪談が流れるのみ。
テキストを読み進めるという形式もあれば、稲川淳二氏ご本人が怪談を語るムービーが流れることもあります。
それはそもそもゲームなのか、そこに何らかのゲーム性を認定できるかというと、否定的な判断を下さざるを得ません。
本作品群はビデオやDVDで代用できるのではないかといわれると、まさしくそのとおりです。
しかしながら、ゲーム性が認定できないことを理由に本作品群を否定するのは評価の方法を誤っていると思われます。
ここではゲームという次元を離れ、物語、特に怪談という視点において本作品群を考えるのが賢明な判断でしょう。
まず最初に必要と思われるのは、怪談の概論とでも言うべきもの。
もっとも大切な視点は、霊や超常現象の存在を認めない信条を持っていても、物語を単体として楽しむことは可能であるということです。
対象の真実性と娯楽性を分離して評価することは、読者諸賢にとって容易なことでしょう。
たとえば、我々はいかにもなハリウッド映画を楽しむことができます。
暴力、戦争、セックスに満ち溢れたものを想像されるとよいでしょう。
銃刀法、刑法199条、177条などの法条に違反しているので楽しむことができない、ということは無いはずです。
勿論、作品に無知が著しい場合には不快感を覚えますが、それはよほどの場合に限られます。
我々は現実と映画を分離して把握することができるからです。
逆にいうならば、「今の逮捕は刑事訴訟手続きに反している」、などと突っ込みを入れながら楽しむことだって可能なはずです。
映画の側にも意図的な(としか私は思われない)不条理場面があったりするではないですか。
非現実性が許容範囲内に収まっており、かつそれを上回る面白さがあるかどうか重要であると私は思います。
怪談もこの映画の場合と同じですよね。
本作品群の特色は、なんと言っても語り手である稲川淳二氏の話術にあると評価してよいでしょう。
まったく怖くない・つまらないという話しであっても氏はさまざまな技法を用いて私たちに話に興味を持たせてくれます。
怪談の全国ライブツアーまで行っているという氏の話術はまさに「技」の域に達していると私は感じます。
たとえば、こんな感じでしょうか。
- 単に障子をあけるにしても毎回必ず「ツーっと」というわけのわからない擬音語の形容詞をつけてみたり
- 「はあー」とよくわからない驚きの悲鳴を上げてみたり
- 小声でつぶやいていたかと思うと、いきなり声を荒げて驚かせてみたり
などなど、どれも聞くものを楽しませよう、びっくりさせようと最大限に努力されていますね。
逆にいえば(私の場合は)怪談そのものが全く怖くないことを氏が理解された上で、ならば話術で補わなくてはと考えていらっしゃるのかもしれません。
どの道、小話や文章で人間を怖がらせるのは極めて困難なことです。
ならば、我々もそこを踏まえた上で氏の話術に心を躍らせるのが得策というものです。
私は主として寝物語にこの怪談を聞いておりました。
部屋の電気を消し、ベットにコントローラーを入れ、目を閉じ怪談に耳を傾けると、いつも安らかな眠りが訪れてくれたものです。
このときはコントローラーを腹の上に載せ、意識はまどろみの中にありました。
そのとき突如、「あけちゃいけない」という大音声ともに腹の上でコントローラーが激しく振動するのです。
(PS版ではデュアルショック機能に対応し、要所要所でコントローラーが大小の振動を行います)
驚愕とともに飛び起きました。
冷や汗がびっしょりと、これほど恐ろしい思いをしたのは人生で何度あったかというほどのものです。
(繰り返しますが、これは怪談そのものが怖いわけではありません)
もうひとつ忘れてはならないことに、怪談はその胡散臭さを楽しむというものがあります。
ソフトの箱やマニュアルには、このような記述が見られます。
- 注意、遊び半分でこのソフトをプレイしないでください
- もしいやだったらこのままお帰りになってもいいのですよ・・・・
- 本ソフトでのプレイを始められるにあたって、貴方に災いが降りかからぬよう、右のお札をパッケージにお貼り付けいただくことをお勧めいたします。
このお札は邪悪な霊が本ソフトに引き寄せられ、霊界との道を作らぬよう封印するものです。
(マニュアルに御札がついていたらしい。というのも、中古で購入した私の場合は無かったのです。)
などなど。
さらには毎回淳二氏が、このようなことをのたまいます。
- 怪談を聞くことにより貴方の周りには大変に霊が集まりやすい状態となっております。
- 貴方の周りにどんなことが起こっても、私は一切責任を負いません。
等々、シャーロックホームズにおけるコナンドイルの場合のように、プレーヤーが淳二氏の常套手段を楽しんでくださいといわんばかりです。
さらには怪談の中にも、おかしなものが満載です。
- 実話をうたいながら、死んだ人間が自分の死にざまを語るものがある
- あまりにばかばかしい話しのあとには、「何だこれは」と自分で突っ込んでみる
このような笑いどころが満載ですね。
全体としてプレーヤーを楽しませればよい、という妥当な価値判断が伺えます。
私自身今作品群を誉めているのか、それともけなしているのか、なかなか微妙な文書となりました。
全体として馬鹿にしているのではないか、と我ながら感じないこともありません。
しかしそれも含めて、私は面白いと評価しております。
数が少ないので市場で見かけることはまれでしょうが、中古などで見かけた場合には保護して損は無いと私は思います。
DVDのほうが安かったら、そちらのほうがいいかもしれませんが。
ということで、本論はゲームというよりは怪談話でした。
以下個別的作品について少々言及を加えます。
- 古伝降霊術、百物語
どうやらスーパーファミコンやPCエンジンで発売された怪談ものの集大成のようです。
したがって内容はテキストを読む形式の怪談が中心です。
セガサターン、プレイステーションという(当時の)新ハードによって動画の再生が可能となったことを受け、10程度実写で稲川淳二氏が語られるものがあります。
読む怪談が中心ですが、それに合わせて効果音が極めて効果的に使用されております。
深夜にヘッドホンの大音声でならば、大変に楽しめるのではないでしょうか。
稲川淳二氏の話術と比較しても、甲乙つけがたい内容です。
作品内容とハード性能は比例関係に無いことが、こんなところからも感じられます。
テキスト中心で一話一話の容量が小さいためか、本作は全100話超と膨大なボリュームを誇ります。
なお一度聞いた怪談は、後から自由に閲覧できるようになります。
私的には、怖いというよりも、奇妙な話しという印象が強いです。
- 稲川淳二 恐怖の屋敷
本作からはプレイステーションの機能を最大限に生かし、稲川淳二氏の会談ムービーが中心です。
全30話程度でしょうか。
全体の四分の一程度、テキストを読むタイプの物語が含まれて降ります。
残念ながらこれらは無駄に一話一話が長く、展開が冗長で、音響効果にも特色が見られません。
「百物語」と比べると、ハード性能向上にかかわらず内容面の後退が認められます。
しかしながら実写の物語は、稲川淳二氏の語りが冴え渡っております。
本作でも一度聞いた怪談は後から自由に閲覧できるようになります。
- 稲川淳二 真夜中のタクシー
本作も実写による怪談ムービーが中心です。
全36話でしょうか。
そのうちの半数程度は稲川氏以外の方の会談ですので多様な語り口が楽しめます。
淳二氏の技はここでも健在です。
本作ではプレーヤーがタクシー運転手となり、乗客を拾うことで怪談を聞くことになります。
ここで乗客を乗せる、乗せないの選択があり、それによって聞ける怪談が異なります。
一度のプレイではすべての怪談を聞くことができないので、繰り返しのプレイが要求されます。
残念ながら、このシステムが「怪談」というソフトの目的には適切ではないように思われました。
なかなか見つからない怪談もあり、そのための繰り返しで同じ話しを何度も聞かされることになります。
スタートボタンである程度のキャンセルが可能なのですが(なんと説明書に書いてない)、それでもわずらわしいことにはかわりありません。
製作されたヴィジットの方々の、従前のままではビデオと変わらないという危惧の結果なのでしょう。
しかし、怪談と繰り返しプレイはあまり適合的ではなかったようです。
なお、「淳二さんの話しだけど信じられない」という選択肢で遊泳地帯に出勤となりますので、そこで全話収集ができるでしょう。
本作も一度聞いた怪談は後から自由に閲覧できるようになります。
以上です。