「やるドラ」とは、解りやすくいえば「ゲームブック」です。
ちなみに本シリーズの大きな魅力に、低価格という点が挙げられるでしょう。
各ソフトの長所、短所についての言及です。
長所
長所
「Sugar&Rockets」、「ProductionI.G」開発、「ソニーコンピューターエンターテイメント」販売の作品群です。
本論では98年発売の「ダブルキャスト」「季節を抱きしめて」「サンパギータ」「雪割りの花」について言及します。
ある程度以上の年齢の方ならご存じでしょう。
「北なら28へ、南なら204へ」などという選択肢と番号の付いた本のことです。
これらの特徴があるだけで、以外は自動的に物語が進むゲームブックと考えてよいでしょう。
やることは単純です。
画面に表示される選択肢を選ぶだけ。
それによって自動的に物語は進行して行きます。
これだけなんですが、舞台が現代で我々と同じ日常です。
気軽に遊べて、実によいですね。
自ら名のるところの「ドラマ」を「やる」と言うほどの自由度はないですが、自分の選択で物語が進むのは面白いものです。
「たたかう」も「けいけんち」も無いところがまた良いですね。
これだけですが、私が言及するのはそれが高いゲーム性を持っていると考えるからです。
すなわち、「自分の入力と、それに対する結果が明白である」ということに尽きるでしょう。
ゲームとして当然と私は思いますが、それが実現されているものはあまりないご時世ですからねえ。
調査・試行錯誤を重ねないとエンディングは迎えられないという必須要素を満たしつつ、かつ一切アクション要素がないので誰でもプレイできます。
これは大変に素晴らしいことと評価してよろしいのではないでしょうか。
本シリーズは、それぞれシナリオの分岐とマルチエンディングの構成を取っております。
具体的には、円満に事が運ぶグッドエンディング・道なかばにして終了するバッドエンディングが多数存在するということです。
(前者は5つほど、後者は20程度でしょうか。)
ですから本作をプレイする目標は、とりあえず一通りのエンディングを観るという点にあるでしょう。
したがって、どの選択肢がどのような結果をもたらすか(すなわち話を分岐させるか)を調べて行くことが、ゲーム性の中心です。
我々がやりたくてたまらなかった「作業」を堪能できますよ。
(どの程度のメッセージを観たかをあらわす達成度なるパラメターも存在し、これをあげることも一つの指標となり得ます。)
ただ、同じ「やるドラ」でも各作品には相当大きな相違がありました。
私個人の評価ですが、素晴らしいものもあれば少々疑問を抱かざるを得ないものもありました。
物語が素晴らしいもの、システムが秀逸なものなど様々です。
そこで以下に個別の作品について言及することと致します。
何しろ発売本数が多く、時間もかなり経過していますから。
私は季節を抱きしめて480円、ダブルキャスト780円、サンパギータ380円、雪割りの花900円、という価格で購入しました。
1000円以下ならば、確実に損はしないと思われます。
ストーリーに関しては、内容を明かすことはありません。
システムや一般論的言及が「ダブルキャスト」において為されるので、それ以降の作品は言及が少なくなります。
ダブルキャストに比して、他のソフトのプレイ時間が少ないというわけではないことを御察しください。
やはり共通要素が多いシリーズですから、同じ事を重複する必要はないと判断するのみです。
なお、私が最も高く評価しているのは「サンパギータ」です。
「ダブルキャスト」とあわせて読んでいただくと、このシリーズの長所短所の片鱗なりとも感じていただけるのではないでしょうか。
短所
「ダブルキャスト」においては、コンピューターの側でどのエンディングを通過したかを記録する「エンディングリスト」の表示機能がありません。
すなわち、自分でエンディングをメモして行くことが必要となります。
自分でエンディング集を作成するという作業を楽しめるとの評価も可能ですが、やはりあるに超したことはないでしょう。
その場面で微妙に選択肢を変えることで、様々なバッドエンドに到達することとなります。
バッドエンドを探して遊ぶためには、やはりゲーム各所にまんべんなく均等に分布していて欲しいですね。
バッドエンドを探すというのは、実は一番面白いことかもしれないですから。
「やるドラ」の素晴らしさには、自分の選択と結果の因果関係が明白である、という点があります。
しかし本作においては、終盤まではひたすら一直線、しかし終盤の一地点においてプレイ内容によって物語が分岐という構成です。
すなわち、自分のどの選択肢によってそのエンディングがもたらされたのかがわかりにくいのです。
もちろん、不可能というわけではありません。
あるルート、及びそれと選択肢一つのみを変えたルートを比較すれば、隠しパラメーターに関係するものを割り出すことは十分に可能です。
ただ、アクション要素皆無のゲームでくり返しのプレイに面白さを見いだすことは困難です。
選択肢の数は数十に上りますし、内部条件が複数の選択肢によって初めて充足されることも予測されます。
一体どれほどの回数のプレイが必要になるかを考えると、暗澹たる気分になります。
隠しパラメーターが問題になってくるような段階では、すでに全ての選択肢を選んでいるので新しいものを選ぶ、という面白さは無くなってしまっています。
一度観たシーンをスキップする機能はありますが、決して快適というスピードではありません。
そこに於いて、微妙に選択肢を変えつつ、エンディングの分岐地点まで何十回もプレイするのは、苦痛ですね。
せめてキャンセルボタンを押すと、次の選択肢まで一気に移動できるようになっていたら良かったのですが。
つまり、全く同じ場面に進んだのに、それまでの内部的条件によって結果が異なってしまうことです。
全く異なった地点にエンディングがあったほうがゲームとして面白いですし、現実問題として内部条件を探ろうという気力が起こりにくいでしょう。
上述の「隠しパラメーター」に依存するというだけのことなのですが。
そういう意味では、「やるドラ」は難しいです。
シューティングゲームの優れた点は、入力に対する結果が極めて明白であることです。
理にかなわないプレイをするとたちどころにミスという結果が生じますが、これはある意味難度が低いと評価できるでしょう。
どんなに厳しくとも、為すべき事は明白なのです。
対して「隠しパラメーター」の場合、自分の失敗の原因すら識別することが困難です。
正しくない選択をしても、そのままゲームが続行していくことがますます難度を上げている、と評価できると思います。
私がこのシリーズで最初にプレイしたのは、このダブルキャストです。
経験が浅く、「隠しパラメーター」という概念を持たなかったために、自力でグットエンドに到達することはできませんでした。
ただ、本作における「隠しパラメーター」はほんのわずかです。
しかもそれは極めて明白なもので、同種のゲームの経験があれば容易に推測できるものでしょう。
すなわち、メインキャラクターとの「ときめき度」とでも称すべきもののみです。
それを充足するような選択肢を選べばよい、それだけのことですね。
今後この作品をプレイされようという方もいらっしゃるかもしれないので、背景と同色で記述してあります。
選択肢を選んで行くだけでは駄目で、実は何らかの内部条件が存在している。
解答ではなくあくまでヒントに過ぎないものですので、つまって初めてご覧になるのもよいかも知れません。
このことさえ理解できれば、十分に自力でのグッドエンド到達は可能でしょう。
(ただ、他のグッドエンドは著しく困難なことは確実です。)
極端に抵抗を感じる、ということは少ないでしょう。
「ダブルキャスト」」と言うタイトルからかなり予想できたのですが、ゲーム上も見事にその通りでした。
ゲームをする前から予想が付いてしまうと言うのもまた、珍しいですね。
短所
その理由は後述です。
このようなシステムのゲームでは、「難しい」ことが「不条理」と紙一重に感じられるのは、私だけではないでしょう。
悪くいうと、攻略本の存在が前提にされているように思われます。
内部的条件とは、以下のようなものです。
「選択肢の結果によって変化するものの、ゲーム画面に現れることなく、かつゲーム進行に大きく影響する要素」
ダブルキャストのように一つ満たせばグットエンド、ということはありません。
複数の条件があります。
ゲーム進行に必須の選択肢の結果が、数章先になって現れるなどは日常茶飯事です。
「あの選択肢が条件か」と気が付かないこともないでしょうが、前述のようにそれは困難というものでしょう。
私は本シリーズでこの作品を最後にプレイしました。
そこで以前の経験から、全ての選択肢をメモし、エンディングリストを作製しました。
(ダブルキャストはこれを怠ったために、自分がどのエンディングを観たかが解らなくなった)
それでもこのゲームでは不十分だったのです。
一度新たなイベントを発生させることができても、内部条件が複雑すぎてそれを再現することができなかったのです。
つまり、プレイ毎にどの選択肢を選んだかを記録して行かなくてはなりません。
どこの些細な選択が、そのイベントの条件かが解らないからです。
また記憶に頼っていては、完全な再現は不可能といわざるを得ないからです。
このシリーズには「達成率」という項目があるために、常に今まで選んでいない選択肢を選びたくなってきます。
しかしこれではダメだったのですね。
ただ、あらかじめこのことさえ理解してシステマティックにこのゲームに取り組めば、以外と楽にエンディングにたどり着けるかもしれません。
理由はダブルキャストの場合と同じです。
つまり「アニメくささ」がかなり強烈であることです。
私は最初の抵抗が大きくすぐにプレイを中断してしまい、再開に一月以上を要しました。
ヒロインの一人「トモコ」さんは髪の色・しゃべり方・声優・性格まで全てエヴァンゲリオンの「葛城ミサト」そのままでした。
ですから、選択肢相互の関係をメモして行くのが大変にやりがいがあって面白かったです。
ただこれも程度問題で、前述のようにその変化が現れるのにいささか時間がかかる場合も散見されました。
ゲーム内部での一章程度ならかえって面白いのですが、あいだが離れすぎるとそれは不条理と紙一重です。
基本的に画面を見る以外にすることがないのですから、面白いストーリーというのはなかなか大切なことだと思います。
以上です。