文化、日蝕

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とりあえず、本年度始めて読んだ本は、「日蝕」平野啓一郎著。
次は「トロイア戦争物語」
次は「シェイクスピアを楽しむために」阿刀田高著。
次は「鬼平犯科帳、21巻」池波正太郎著。
と多分この程度であった記憶があります。 最初の一冊は、京都大学在学中に執筆された本であったはず。
著者の方は私と知識傾向がかなり類似しておりますが、少なくともこの分野に関しては私よりもはるかに博識の方です。
ドミニコ会の修道士が、錬金術師との交流と魔女の処刑を通じて合一を体験する。
言ってしまえばあらすじはそれまでのことです。
正直なところ、一読して何を言いたいのか理解できませんでした。
衒学的表現が小説の各所に見られますが、それが単なる装飾なのか主題にかかわるものなのかが今のところ判別できませんでした。
普遍論争およびトマスアクイナス、この業績が各所に散見されるのですが、それが主題にかかわるのか否か。
私の知識にはこれらの概要の理解すらないために、見当がつきませんでした。
とりあえず、岩波哲学辞典で調べるところから始めてみましょう。
知識をそろえた上で、再び読み返し、何年も考えて行きたい一冊です。
全体の印象としては、きわめて荒削りな印象を受けました。
叙述も人物設定も物語り展開も、すべてが彼の観念を表現するための道具に過ぎないということが極めて明白に感じられます。
純粋な観念の表明、と評価してよい書物でした。
恐らく作家としての彼の主張すべきことはここにおいてすべて出尽くしているのでしょう。
次の「トロイア戦争物語」、たまたま神保町で見かけた100円本です。
ホメロスという名はやたらと有名ですが、さらにそのイリアス実はこれは恐ろしいほどつまらない本で、岩波文庫二冊分というきわめて短いものにかかわらず、読むことが苦行のような本でした。
これはその「イリアス」を外国の文学者がわかりやすく、しかも面白く要約したものです。
ホメロスのイリアスは、実はトロイア戦争といいつつ、内容はトロイア戦争開戦9年目のアキレウスとアガメムノンの対立から、ヘクトルの葬儀までという、事情を知らない人間にとっては尻切れとんぼのような物語です。
ですので、当時からすでにそれを補う叙事詩や戯曲が多数製作されているようで、本書はそれらから適度に物語を準拠させてあり、完結した物語として楽しむことができます。
中でも一番面白かった部分を少々引用。
ヘクトル(トロイア方の総大将)の妻アンドロマケがスカマンドロス川の神に、夫の守護を願う場面です。
川の神、「そなたは誰だったかな。」
アンドロマケ、「アンドロマケです、プリアモスの息子で第一王子のヘクトルの妻になりました。」
川の神、「ヘクトル、あの偉大な武将か?」
アンドロマケ、「はい」
川の神、「彼の愛の技は戦いの技ほど巧みか?」
アンドロマケ、「私は毎晩殺されています」
以上。
いったい誰の作った、なんという叙事詩に準拠しているのでしょうか。
きっと歌い手がこの物語を聞かせるとき、男はにやにやしながら、女は「いやねえ」といいながら、笑って聞いていたのでしょう。
古典文学って、このような一面もあるから面白いのです。
長くなったので、残りの本はまた明日。


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