名著紹介


歴史

自然科学
古典関係
小説
マンガ


項羽と劉邦、司馬遼太朗

自分は司馬さんの本は数冊しか読んだことがありません。
でもこの作品、通して5・6回は読んでいます。
がいか(すいません、漢字が出ませんね。)の戦いの場面、暗唱しています。
とくに「気は山を抜き・・・」の歌とか。
司馬さんは、一貫した現実主義の立場で書かれているところがいいですね。
三国志も面白いのですが、忠義が全てという視点になってしまうのでいまいちです。
以前に歴史物は三国志しか読んだことがなかった少年の僕は、新鮮な驚きを覚えました。

この作品は、原作の司馬遷の紀伝体に忠実に各人物ごとに章に別れています。
それにしても紀元前三世紀の人なのに、司馬遷は現代においても全く劣らない視点を持った方ですね。
「貨殖列伝」を作るなど、なみたいての洞察力ではありません。


ワイルドスワン、ユン・チアン

辛亥革命から文化大間革命まで。
この間の中国の歴史をご存じですか。
祖母・母から聞いた話と自らの体験をもとにこの時代を、詳しく描いた本です。
とくに、両親が共産党員(とくに父親は高級官僚)であったために、この時代の共産党の内情が書かれた貴重な資料でもあります。

中国がいかに壮絶な歴史を歩んできたのだということが理解できます。
とくに文化大革命、つい20・30年前の話ですよ。
かの隣国を理解するために、あらゆる人に読んで欲しい本です。


楼蘭、井上靖

歴史小説において、自分がもっとも多数読んだのは井上靖さんです。
(とはいえ、彼の小説で自分は「あすなろ物語」「しろばんばが一番好きだったりします。)
司馬遼太郎氏(司馬遷)が人間に重点を置いた歴史を描きます。
それに対し、井上靖氏は人智を超越した歴史の流れとでも言うべきものに重点を置きます。
叙述がとても乾いているんですね。
この「楼蘭」とは、前漢の時代、タリム盆地のロブノール(ヘディンの言うところのさまよえる湖です)のほとりにあった小国です。
遊牧民と漢帝国という大勢力の狭間で揺れ続けた小国が、ついには生命線のタリム側の枯渇によって滅亡するまでの歴史を描いています。
西域って、あこがれませんか。


一番上に戻ります。


ホーキング宇宙を語る、スティーブン・ホーキング

なんとこの本、ベストセラーになりましたね。
それだけ売れましたが、本当に読み込んだ人はおそらくかなり少数でしょう。
でもこの本は、本当に優れた本です。
通常の知力を持った人なら、努力次第で十分に理解できるように書いてあります。

一般論になりますが、優れた学者ほど分かりやすい本を書きますね。
これが分かっていない大学教授とかになると、専門用語だらけで非常に分かりにくい本となります。

最新の宇宙論、とくに時間論(原題はA Brief History Of Time)を詳しく説明したのが本書です。
出版は10年以上前ですが、その間に大きな進歩はなかったので今でもそのまま通用する内容です。
(最近ニュートリノに質量があることが判明したそうです。これは重要事項ですが、その意味はこれから明らかになるのでしょう。)
いってみれば「どうして時間は、他の次元(奥行き、縦横)とことなるのか」ということですね。
本当に面白い本です。
もちろん、それなりに努力しないといけませんが。
今なら古本屋で100円です。
形而上学的思考の訓練にもなっていいですよ。


トンデモ本の世界、ト学会編

「トンデモ」って一時流行語になりましたね。
その出所が、この書名です。
内容はといいますと、世間に流布している疑似科学学説を紹介し、その理論の破綻を指摘して笑い飛ばすという本です。
おもしろおかしく書いてあるので、かなり笑える本です。
しかし、内容は疑似科学批判と至ってまともなのですよね。
世間一般ではこの主旨を無視して、ただ彼らの狭量な常識に合致しないものを「トンデモ」といっていただけです。
基本的にこの本は誰にでも受け入れられるというものではありません。
ニュートン程度の自然科学教養を持っていないと分からない箇所があります。
それに、俎上に挙げられている疑似科学学説をある程度知っていないと面白くないでしょう。
一般の人は疑似科学学説を胡散臭いと決めつけて、注意を払わないのでこの本を楽しむことはできないと思います。
従前から疑似科学の批判本は多数あったのですが、その存在を人に知られることはなく、書店の片隅に埋もれていました。
この「トンデモ本の世界」は、疑似科学批判というものを世間に知らしめ、様々な名著を紹介したという点で、大きな意義をもつものです。
でも、それらに興味のある人にとっては、極上の一冊です。
「五島勉」「矢追純一」「ムー」「黙示録」「ユダヤ」「フリーメーソン」、これらの単語に何かしらの思い入れがある人にとっては、とても面白いはずです。


奇妙な論理(上・下)、M・ガードナー
ハインズ博士「超科学を切る」、テレンス・ハインズ
幻想の古代文明、ロバート・ウォーカップ
世界はこうしてだまされた<さらばUFO神話>、高倉克祐
陰謀がいっぱい、別冊宝島

疑似科学の批判本です。
前述の「トンデモ本の世界」とは異なり、純粋な教養書です。
「奇妙な論理」「ハインズ博士「超科学を切る」」は、疑似科学理論一般の特徴を挙げた上で、諸説を検討するという形を取った、極めて優れた著作です。
この2冊は、ともにアメリカ合衆国の話なのですが、全くそのまま日本にも当てはまってしまうところが面白いですね。
新聞広告を見ると、未だに疑似科学本の広告があふれています。
決してこれは怪しい本に限ったものではありません、「文芸春秋」とか「アエラ」「週間読売」といった週刊誌においても全く同じです。
マスメディアの科学教養の欠如は著しいですね。
未だに「永久機関」や「M資金」の詐欺事件が新聞には時々登場します。
それに「ユダヤ陰謀論」らしきものも、頻繁に現れますね。
一般人の科学常識ってそんなに低いのでしょうか
ナチスドイツのユダヤ人虐殺だって、その原因は疑似科学による誤った人種理論にあります。
それに戦前の日本は、政府の側でユダヤ陰謀論を宣伝していましたからね。
「疑似科学」はのさばらせておくと、オウム真理教どころの騒ぎではなくなってしまいます。
正しい目を持つという意味で、必読書といってもいいくらいです。

以下の三冊は、個別具体的な説の批判なので上記の2冊のような普遍性はありません。
ただ、とても詳しいです、興味のある方はどうぞ。


セックスウォッチング、デズモンド・モリス

扇情的な題名が付いていますが、なんのことはない教養書です。
生物学的な性差と、社会的な性差これらを具体例を中心に論じてゆきます。
この本の面白いところは、著者のデズモンド・モリスが、動物行動学者であるという点です。
人間を研究対象の動物と同じように扱い、誕生、恋愛、生殖等について論じます。
また社会学的性差(ジェンダー)が、生物学的には一体どういう意味があるのかなど大変興味深い指摘が多いです。
具体例が身近な人間であるので、気軽に楽しく読める名著です。


ゾウの時間・ネズミの時間、本川達夫

ベストセラーになった中公新書です。
何回も読み返しました。
自分は大学の学園祭で、サークルで著者の方を呼んで講演していただいたことがあります。
そういう意味でも、大変に思い入れのある本です。
「様々な生物ごとに、時間の経過は異なる」、これがこの本の主題です。
それを説明する過程が、素晴らしいのですね。
生物の体長をnとする事によって、体重(nの3乗)、表面積(nの2乗)など次々と生物の構成要素を代数で現してゆきます。
あとは、ひたすらこの代数を利用した計算で説明してゆくのです。

ちょっと、具体例を挙げてみますね。
例えば、蟻などの昆虫はどうしてあんなに力持ちなのかを説明してみましょう。
筋力は筋繊維(筋肉)の断面積に比例します。
断面積は面積なのですから、体長nの2乗に比例します。
つまり、nの2乗で表せます。
体重は、体積に比例するわけだから、nの3乗で表せます。
ということは、筋力:体重=nの2乗:nの3乗=1:n。
この比例式から導かれることは、体重が大きな生物ほで筋力は相対的に小さくなるということです。
蟻は、あんなに軽いので力持ちなのです。
どうですか、分かりやすく説得力があっていいでしょう。

というわけで、全編この調子で説明がなされているわけです。
この本の理屈を覚えると、なんにでも応用が効いてとっても便利です。
すごく、いい本ですよ。


ビタミン・バイブル、アールミンデル

自然科学という分類に含めるには少々疑問のある本です。
基礎科学というよりも、実用書というべきですね。
で、この本の内容なのです。
この本の特徴はビタミンを如何に利用するか、ということが重点に置かれているということです。
つまり、それぞれのビタミン、ミネラルについて、以下の各要素の詳しい解説があります。

  • 科学的事実(組成、科学的働き、人体の含有量など)
  • 体にとって何をしてくれるのか
  • 欠乏症はなんであるか
  • 過剰摂取の毒性は何か
  • どのような食品に多数含まれるか
  • サプリメント(薬品)として利用する場合の注意
    この本のよいところは、決して薬剤の摂取を勧めているわけではないという点です。
    というよりも、薬剤(栄養剤)の欠点を詳しく書いてあります。
    逆に言うなら、ビタミン、ミネラルは食品から十分に摂取可能であるという点がよくわかります。
    そしてまた、市販の「健康にいい」という食品の嘘がとてもよくわかります。
    健康に生きていくために、栄養学の基礎知識は大切ですね。
    ちなみに自分は、ストレスのたまる勉強の生活を送っているので、不眠、不安、うつといった症状に悩まされがちです。
    運動が最良の薬であるというのは間違いないのですが、それ以外にもこの本を読んでいろいろと知識を得ました。
    精神安定には糖分が(科学的にも)有効なのです、さらに効果が欲しいならビタミンB系のサプリメントですね。
    そして運動不足による肥満によいのは、タンパク質です。
    これは(タンパク質を構成する)アミノ酸の一種が成長ホルモンの分泌を促す効果を持つからです。
    つまり、適度に肉を食べるとよいということですね。
    本当にためになる本です。
    ちなみに自分がこれだけは、と思っている健康食品があります。
    それは、ビール酵母です(エビオス錠とかいう名前でうっています)。
    薬ではなく、単なるビールの絞りかすです。
    でも、必須アミノ酸を全て含み、多量のミネラルを含有しています。
    あまりおいしくないですが、本当に理想的な食品です。
    減量にも有効ですよ(体験者は語ります)。


    わが内なる類人猿、ジョン・マキシノン

    人類の行動を比較行動学的に考察することが本書の主眼です。
    そしてその考察は、熱帯降雨林中での詳細かつ長期に渡る類人猿(テナガザル・ゴリラ・チンパンジー)の観察に基づいたものである点で大変に実証的なものといってよいでしょう。
    いかなる経緯で人という種は誕生したかをその進化の必然性を明らかにしつつ論が進みます。
    (この経緯に関しては下方に要約あり。)
    そしてこの生物学的進化と同様に、行動の系統的発生も考察されてゆきます。
    すなわち言語・テリトリー・生殖・芸術・家族・社会性等々ですが、この部分こそが本書の中心でしょう。
    我々が人類の特質と考えていたものは、ほとんど全て類人猿の中に同じ要素を見いだすことができます。
    例えば強姦や肛門・口唇性交、オラウータンやゴリラの間でも確認されているんですね。
    更に人類の特質とされる同族殺し、実はこれもありふれた現象なのです。
    他の群の子供をさらって喰らうこと、大変によくあるのだそうです。
    (類人猿は草食の場合が多いですが、タンパク質を摂取するために狩猟も行います。)
    類人猿と人間の差違は、人間が恐ろしいほどの殺傷能力のある道具を所持している点のみです。
    逆に言うならば、類人猿は攻撃手段が貧弱なので大規模殺戮ができないにすぎません。
    こう考えるなら、人類だって類人猿と同じなんですね。

    以下は当該部分の要約ですが、自分の知識の整理のために長々と詳しく書いてあります。
    人類はアフリカ熱帯雨林中のエジプトピテクスという種であった時代です。
    1000万年ほど前に小型ざるとの競合関係を生じ、我らがエジプトピテクスはその体格を巨大化させることで対抗をはかりましたが、その争いには敗北しました。
    この体格の巨大化は対抗上は有利でしたが、樹上生活には不適でした。
    しっぽでバランスをとることができなくなって尾は消滅し、樹上においては飛び跳ねるのではなく腕を使って懸垂の姿勢をとらざるを得なくなったのです。
    こうして現行類人猿の特徴は発生しました。
    この原始類人猿の生息地帯であるアフリカ熱帯降雨林中が、大地溝帯の活動による山脈の隆起で乾燥化を迎えます。
    乾燥化の進んだ山脈東側の類人猿は荒野への進出を余儀なくされ、そこから2足歩行の人類が誕生しました。
    逆に乾燥化のなかった山脈西側はゴリラ・チンパンジー・ピグミーチンパンジーとして現在に至っています。
    (これら三種はニジェール水系による隔離と生息位置による分岐です。)


    利己的な遺伝子、R・ドーキンス

    大変に有名な書名ですが、通俗的な誤った理解ばかりが見られる概念でもあります。
    ドーキンスの主張の中心部は、進化における生存競争の主体を個体から個々の遺伝子(自己複製子という用語を彼は用います)に置換することです。
    従って、浮気は遺伝子のせいなどと抜かす連中はドーキンスの説さえ理解していない馬鹿といってよいでしょう。
    このドーキンスの主張は指摘としては大変に興味深いものですが、結論として誤っているとほぼ現状では断言できると思います。
    少し前に利根川進教授がノーベル生理学賞を受賞しましたが、彼の研究内容は見事なドーキンス説の反証となっております。
    無限ともいえる体外の物質に対抗すべく形成される抗体、この抗体形成の指令をだす遺伝子は自らをランダムに変化させることでほぼ無限の種類の抗体の形成を可能としました。
    ここで変化しているのは当該遺伝子のDNA配列そのものなのですが、ドーキンス説によるとそれは主体そのものの変化を意味しています。
    主体の変容があるならば、それは自己同一性を保っていないという点でけっして生存とはみなされないはずです。
    遺伝子が変容することで、全体としての個体の生存をはかる。
    つまり生存競争の主体は個体であって、自己複製子ではない。
    ただこの学説はかなり大きな影響力を(特に人文科学系)に及ぼしたようです。
    究極的な自己の責任回避という点で、ドーキンス説は決定論的であり、神という語を遺伝子に置き変えただけとも思われる節があります。

    ドーキンス説が間違っている事を主張してきましたが、その指摘自体は大変に興味深いものなので一読の価値はあるでしょう。
    とくにゲーム理論の使用法など、見事の一言に尽きます。


    一番上に戻ります。


    ソフィーの世界

    この本もベストセラーになりました。
    ほんと、ベストセラーになる本は駄作かその内容が誤解されているかのどちらかです。
    この本、自分探しとかなんとか言われています。
    全く違います。
    この本は純粋な哲学史の教科書です。
    「過去の歴史の重みを知らずして、人間の存在はあり得ない」
    このことを言いたいがために、著者はこの本を書きました。

    各哲学者に関する説明が圧倒的に不足している。
    ハイデカーやサルトルが入っていない。
    それどころか西洋哲学しか説明していない。

    と欠点はいくらでも出てきます。
    それでも、主要な哲学者について大変に分かりやすい解説を行ったというのは素晴らしいことです。
    だってたいていの哲学・思想系統の本はやたらとわかりにくいですからね。
    (少なくとも自分は理解できない文章です)
    それに、興味を持ったら自分で他の本を読めばいいのですから。
    日本人にもっとも欠ける素養は、形而上学的思考であるといわれます。
    この本を読んで、鍛えてみるのはいかがでしょうか。
    (ちなみに哲学者の解説は、岩波書店の「哲学小辞典」の方が分かりやすく優れています。)


    オデュッセイア、ホメロス

    2000年以上前に成立した叙事詩です。
    トロイア戦争を戦ったあと、智将オデュッセウスが10年をかけて故郷に帰る話です。
    とはいえ、そのうち8年は他の女のもとにいますが。
    神様や化け物がいっぱい出てきて、冒険活劇として純粋に面白いです。
    有名な古典ではありますが、難しい文章など無く(さらには思想性もあまりなく)誰でも手をつけやすい一冊です。
    ちなみに「ナウシカ」という名の出所はここにあったのをご存じでしたか。


    ギリシア神話を知っていますか
    アラビアンナイトを知っていますか
    新約聖書を知っていますか
    旧約聖書を知っていますか
    ホメロスを楽しむために
    新トロイア物語
    阿刀田高。

    現在の自分のお気に入り作家ナンバーワンです。
    その阿刀田さんの書いた、古典紹介作品群です。
    有名だけどその内容は知られていない。
    そんな古典の面白い部分を、分かりやすく紹介してあります。
    歴史上の事件や偉人に対しても、いちいち彼自身の視点での面白いつっこみを入れてくれます。
    楽しく読める上に、古典の知識も付くと、この上ない良作です。
    アイヤー、ヨッと。
    なんのことだか分かりますか。
    アブラハム、イサク、ヤコブ、ヨセフとイスラエルの父祖達を、覚えやすいように頭文字を順番にならべたものです。
    全編こんな調子ですから、すごいでしょ。
    「小説は、内容の妥当性と無関係に、そのテクニックを評価するべきである」
    このことを教えてくれた人としても、阿刀田さんは貴重な方です。


    旧約聖書物語
    新約聖書物語
    犬養道子

    自分はキリスト教徒ではありませんが、聖書の世界にはとても興味を持っています。
    それで、キリスト教関連の本はずいぶんと沢山読みました。
    その中でもこの二冊が自分はもっとも優れていたとおもいます。
    まず、十分な情報量があります。
    聖書は(とくに旧約)基本的に歴史書であるので、この部分をないがしろにすることはできません。
    またこの本は、信仰のためではないので違和感を感じることもありません、あくまで聖書の紹介です。
    それに、一般の日本人が理解できるように、我々になじみのない慣習や概念を詳しく説明してあります。
    ここって、結構大切なのですよね。
    最近「小説聖書」という本が翻訳されました。
    いい本なんですが、日本人には難しいですね。
    幼い頃からおとぎ話のように聖書の話を聞いて育った西洋人にとっては問題ないのでしょうか、日本人にヘブライの預言者の話をずっとされても理解できません。
    この本、ベストセラーになりましたが本当に読んだ人は少数でしょう。
    この点「聖書物語」の著者は日本人の犬養道子さんですから安心です。

    やはり、アメリカやヨーロッパの文化の根底にはキリスト教がありますからね。
    政治はいうに及ばず、ハードロックなどにまでその影響は拭い難く及んでいます。
    向こうを理解するためにも、必読の書といってもいいのではないでしょうか。


    日本神道のすべて、日本文芸社

    実に低俗な書名です、しかし内容はたってまとも、そんな本です。
    みなさん、「神道」という言葉にどのようなイメージを抱きますか。
    そもそも、神道に対して何らかの知識をお持ちですか。
    キリスト教、ユダヤ教の方が遙かに知識がふかい、恥ずかしながら神道についてはほとんど無知。
    そんな方が多いのではないでしょうか。
    神道についての認識が低いことにはいくつかの原因があります。

  • そもそも、体型化がなされていない。
  • 戦前の教育の反省。 この二点ですね。
    この本を読めば、神道の歴史や仏教との関わり、皇室との関わり、戦前における神道のあり方と言った、基本的事項は理解できます。
    そして、体型化という行為の意味となぜそれがなされていないのか、という重要な事項の意義も分かります。
    神道は基本的に自然崇拝です、皇室はたまた軍国主義とは本来的に馴染まないものです。
    こういった、神道の基本ではあるが知られていない事を理解するためにも、是非読んでいただきたい一冊です。


    一番上に戻ります。


    風の歌を聴け
    ノルウェイの森
    村上春樹。

    これらも、どこがいいのかよく分かりません。
    でも、共に10回ぐらいは読んでいると思います。
    どことなく漂う、寂しげなところが好きです。


    アルジャーノンに花束を、ダニエル・キイス

    「2001年」と並んで、自分がSFの最高峰にあると考える小説です。
    サイエンティフィックフィクションであるのみならず、高い文学性をも兼ね備えた作品です。
    知恵遅れのの青年が人工的に知能を高められ、そしてそれが衰えゆく過程を描いています。
    万人に勧められる良作です。

    以下、どうでもよい自分の体験談です。
    自分は何を間違えたか、洋書でもこの作品を読んでしまいました。
    何しろ、神保町で150円だったからです。
    このとき「degenerate」という単語を知りました。
    「堕落した」という意味です。
    「generate」は「創造」という意味であり、その否定であるから「堕落」。
    ふとした単語の断片にも、宗教観が現れていて大変興味深いと思いました。


    そして誰もいなくなった、アガサ・クリスティー

    素晴らしく完成された小説です。
    自分は恐怖とは、

    というものであると考えます。
    古典においては聖書の「黙示録」、近いところでは「リング」と、皆この図式にのっとっています。
    「そして誰もいなくなった」、まさにこの典型が、この上なく見事に描かれているのです。
    クリスティーの技巧を存分に堪能しましょう。
    万人にお勧めできる名作です。


    クリスマスのフロスト・フロスト日和、RDウイングフィールド

    なんと形容すればよいのでしょうか、犯罪小説です。
    場所はロンドン近郊の小都市デイトン。
    我らがジャックフロスト警部は、行き当たりばったりでなんの推理もしません。
    でも不眠不休の残業しまくりで、次々と発生する事件を解決していきます。
    中心となるエピソードが存在するわけでもなく、推理小説とはいえません。
    でもこれがまた、面白いのです。
    とくにこのフロスト警部が下ネタ好きで下品で。
    食事中に、自分が死体を初めて見たときの話をします。
    「いやあ、とりあえず運ぼうとして両腕をつかんだら、肩からもげちまってさ。」とか。

    自分はこのフロスト警部にいかれてしまい、続編が読みたくてなんと洋書に手を付けてしまいました。
    だって、まだ日本語には上の二冊しか訳されていなんです。
    1/3ぐらいで止めてしまいましたが、面白かったですね。
    英語では、男性の一物をdickというそうで、このdickネタが満載なんです。
    たとえば死体鑑識所で、こんな会話を繰り広げます。
    Hey,Is there anything strange about him?
    Did he have two dicks?
    それに、形容詞も豊富です。
    「Mechanical dick」って,すごい単語ですよね。
    メカっぽくていい感じです。


    ラブクラフト全集(全6巻)、H・P・ラヴクラフト

    著者のハワード・フィリプ・ラブクラフトは20世紀前半、アメリカ東海岸の人です。
    エドガー・アラン・ポーの少し後の時代の人で、幻想・怪奇小説を執筆しました。
    生前は全くの不遇で、死後に世に広まりました。
    彼の作品のテーマは、深宇宙の恐怖を描くことです。
    人類の文明、そして地球は極めて皮相かつ浅薄なものである。
    この宇宙には人類の想像を絶する力を持った実在がある。
    そしてそれらの前に、人間は全くの無力である。
    これが彼の信念であったわけです。
    彼の小説はアンチ・ヒューマニズム、つまり聖書のように主体が人間ではなく超越的実在となります。
    井上靖氏の叙述とそういう意味では共通しています。
    人間味のない、乾いて客観的な文体です。
    彼の出生地であるニューイングランド。
    そこは暗く湿った土地柄、そして合衆国唯一のセイラムの魔女裁判という歴史を持っています。
    これが彼の作風に非常に大きな影響をあたえました。
    彼が創作した架空の街アーカムはニューイングランドそのものと言っていいでしょう。
    客観的に評価するならば、彼の作品には駄作が多いです。
    しかし、「アブドゥル・アズハルレッド」「無名祭祀書」「大いなる種族」などといった印象的な単語とともに強烈なイメージを読者に与える力を持っています。
    余談となりますが、ラブクラフトとクトゥールー神話は別物です。
    ラブクラフト自身が文芸仲間に、自己の体系に参加する事を呼びかけたという事実はありますが、あくまで彼の作品はこの全集に収録された者のみです。
    ラブクラフトの視点が人間を超越しているのに対し、彼の作品群を人間のレベルでとらえなおしたのがクトゥールー神話です。
    このクトゥールー神話を編纂したのはダーレスという人物です。
    はっきり言うとこれはラヴクラフトを貶めるものです。
    クトゥールー神話は、冗談ではなく同人レベルの駄作揃いです。
    しかし、このダーレスがいなければラブクラフトが後生に名を残すことはありませんでした。
    彼がラブクラフトを知らしめるために大変な努力をしたという点は、評価しなくてはいけません。

    通算4度目の読み返しですが、彼の作品の評価が固まってきたのでここに記します。
    最近気が付いた、ラブクラフトの文書の特徴です。
    それは一言で言うと、「稲川淳二そっくり」ということでしょう。
    つまり彼は、さまざまな形容詞、倒置方、などを用いて必死に恐怖を伝達しようとします。
    そしてその結果はというと、これまた怪談よろしく、ちっとも怖くない。
    しかしながら、われわれ読者は物語がまったく怖くないことを重々承知した上で、ラブクラフトの技を楽しんでいるのです。
    過剰な文体装飾、美辞麗句、などなど行き過ぎの感はありますがやはりこの文章はすばらしい。
    (形容過多な部分をも含めて)余人の及ぶところではない、このように思います。
    彼の物語内容面で思ったことを少々。
    彼の描く恐怖のイメージの核心は、時間や空間を超越したところには人知の及ばない大いなる力を持った存在する、という点に集約されるでしょう。
    つい先ごろ読み返しました「時間からの影」によれば、この地球上にも大いなる種族のように、何億年も前に人類よりもはるかに偉大な知力体力文明をもった存在があった、という点です。
    これに対して彼の作品の主人公とも言うべき人物の取る対応は常に同じ。
    最初は自らの目にするものを錯覚や記憶の影響として退け、自分の精神以上が驚異の原因であると理解しようと勤めます。
    しかし物語が進んで実体的証拠を数多く目にするにつれ、自分の目撃したものを事実であると受け入れるようになります。
    彼の中での地球上唯一の最高種族としての人類、という観念は音を立てて崩れます。
    人間を超越する実態がこの世には存在し、その前には人類の存在は風の前のチリのようなものに過ぎない。
    幾多の逡巡の末、主人公はこのように悟るのでした。
    これがラブクラフトの用いる手法なのですが、彼の恐怖の前提には、人類至上主義ともいうべき価値観を共有していることがあります。
    つまり、それがないならば宇宙の深遠にどんな驚異が生存しようとも、それはまったくの驚異ではない、ということになります。
    そもそも地質年代で考えたところで、地球の誕生から46億年、人類はここ数万年、宇宙のスケールと地球のそれしかり。
    ある程度の知識をもち、普通に考える人間にとっては、人間など至上の存在であるはずがありません。
    むしろ人間が最上と考えるのは傲慢というものでしょう。
    だから結局、ラブクラフトの話は前提条件の次元で、少なくとも私は怖くない、ということにあります。
    私にとってのラブクラフトの魅力は、なんといってもその奔放な想像とイメージにあるといってよいでしょう。
    だから彼は恐怖の物語を書く人ではなく、私にとっては「ファンタジー」の作家なのです。
    少なくとも「指輪物語」よりははるかにイメージ豊かな作品なんですが。

    以下の数話はそれなりに面白いので、まずこのあたりから読み始められるとよいかと。
    クトゥルフの叫び声、エーリッヒ・ツァンの音楽(2巻)
    ダゴン、無名都市、アウトサイダー、時間からの影(3巻)
    冷気、狂気の山脈(4巻)
    神殿、魔犬、魔宴(5巻)


    一番上に戻ります。


    らんま1/2
    めぞん一刻
    高橋留美子。

    自分はこの人のギャグマンガが大好きです。
    さらにはあのマンネリぶりがたまりません。
    自分はらんま1/2、メゾン一刻のスペイン語版を持っています。
    一度だけ海外旅行に行ったことがあるのですが、買ってきたものがヨーロッパのマンガとゲーム雑誌。
    うーんだめ人間。
    でも、あのだじゃれをどうやって外国語に訳すのでしょうか。
    僕もお湯をかぶるとパンダになりたいものです、でもぴかちうもいいかもしれません。
    それと、こずえちゃんが欲しいな。


    行け、南国アイスホッケー部、久米田孝治

    全編こてこての駄洒落と下ネタで埋め尽くされた、少年サンデー掲載のマンガです。
    下ネタなんですが、絵がすっきりしているのでいやらしい感じはありません。
    (あの稲中とかいうのは、絵を見た時点で自分は拒否反応です)
    一度数えたことがあるのですが、一話で駄洒落が33回出てきました。
    自分は最高のマンガだと思っているのですが、一度人に勧めたら軽蔑されました。
    それにしても日本人の7割が仮性・・・(希望的観測)というのは本当なのでしょうか。


    孔雀王、荻野真

    やるからにはストーリーはここまで壮大でなくてはならない、その見本のようなマンガです。
    大日如来からヒトラー、ルーシファまで、オカルトネタを網羅した熱い物語です。
    (ちょっとストーリーは支離滅裂ですが)
    全17巻で、最終巻にはなんと6パージもの参考文献表があります。
    その中には自分の読んだ本も数冊含まれていました。
    その文献の内容と全く違ったはなしが、マンガの中に書いてあります。
    一体何を参考にしたのか、少々気になるところです。
    きっと固有名詞だけ・・


    風の谷のナウシカ

    最初に一言、注意書きが必要かと思います。
    劇場公開されたアニメーションとこの作品は、全くの別物であることをご理解ください。
    劇場版は、このコミックス版(全8巻)の2巻までを無理矢理映画にしたもので、お涙頂戴の尻切れトンボです。
    このマンガのよい点は、とてつもなく頭を使うということでしょうか。
    人間存在そのものを描くことがこの作品のテーマで、最後の6.7巻はかなりの哲学的色彩を帯びてきます。
    終わりつつある世界を一人抱え込み、的確な状況認識と正確な判断を行う少女ナウシカ。
    「生きることは変わることだ」
    「私達は希望を求めて飛ぶ鳥だ、血反吐を吐き、絶望に打ちひしがれなからも明日を求めて飛び続けるのだ」
    絶望と虚無に向かって命の尊厳を叫び続ける彼女は、最終的に人の運命をそれ自身にゆだねます。
    その選択が人の滅亡につながるであろうことは彼女は理解しながら。
    著者の宮崎氏自身、そのテーマが自己の能力を超えたものであることを告白なさっています。
    その主題をいかに受け止め、考えるか。
    マンガではありますが、読書の本質がある作品です。


    一番上に戻ります。

    戻ります。 inserted by FC2 system